下の写真は5才の男の子
甘いものが大好きでむし歯になってしまいました
結構大きなむし歯です


さて、お母さんはお子さんがむし歯にならないようにかなり気をつけていたそうです
その方法は母親のミュータンス菌が子供にうつらないようにすることでした
箸は親子で同じものを使わない
子供にチュってしない
でも、結果としてむし歯になってしまいました
「こんなに努力していたのに、今までの苦労はなんだったんだろう」
お母さんは結構ショックだったようです
子育てをするにあたって親の口から子供の口に唾液などがうつらないようにする
同じ箸やスプーンを使わない、
キスをしない…
子育てをしたことのある方ならわかると思いますが、
これは相当大変なことですね
さて、親の口から子供の口にむし歯菌がうつらないように、
箸を使い分けたり、キスをしないようにするということは、
(実践するかどうかは別として)日本のお母さんの間ではわりと知られていることようです
インターネットで検索すると、
「特に生後19-31ヶ月の期間は乳歯が生えそろってきて、
ミュータンス菌が最も感染しやすい時期であるため、
Window of infectivity(感染の窓)という特別な呼び方をして、注意を呼びかけています」
なんていうフレーズが簡単にでてきます
19−31ヶ月、ミュータンス菌、感染の窓、というの言葉
これは、おそらくCaufield等が1993年に書いた論文を引用したのでしょう
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(*ここは文献の説明なので飛ばして読まれても構いません)
Initial acquisition of mutans streptococci by infants: evidence for a discrete window of infectivity.
J Dent Res 1993; 72: 37-45
46人の未就学児のミュータンス菌を生まれた時から5才まで調べたところ、
調査機関中38人の口の中からミュータンス菌が検出され、
その検出された期間は生後19-31か月でした
ミュータンス菌が検出されなかった子供は5才まではずっと検出されないことから、
ミュータンス菌が外部から移るのはこの時期(生後19-31ヶ月)ではないかと思われ、
感染の窓(window of infectivity)と呼びました
また、ミュータンス菌のいなかった8人のうち4人は母親以外の人が世話をしており、
ミュータンス菌が検出された38人は全員母親が育てていた子供でした
また、別の研究では母子でミュータンス菌を調べたところ、
71%で遺伝子タイプが一致しました
Li et al.
The fidelity of initial acquisition of mutans streptococci by infants from their mothers.
J Dent Res 1995; 74: 681-5
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以上のことから乳歯列のは生えそろう生後19-31ヶ月位の時期は、
むし歯菌であるミュータンス菌が母親から子供にうつりやすい時期である
母親の使った箸やスプーンを子供が使えばミュータンス菌がうつっちゃうかもしれない
キスでもうつっちゃうかもしれない
これらのことに気をつければミュータンス菌は移らないのではないか?
誰かがこのように仮定して、それが広まっていったのではないかと考えています
もともと上の論文では、
母親にむし歯予防処置を徹底し、口の中をがきれいな環境になれば、
つまり、母親の口の中のミュータンス菌が少なくなれば、
子供にうつりにくくなるのではないかと考察しています
それがなぜかこのように解釈されてしまったのでした
(アメリカの論文ですが、欧米ではキスしないなんて、おそらく考えられないでしょう)
今まで受け継がれてきた風習や文化には、
生活をしていく上で大事な儀式が含まれているのかもしれません
同じ食器を使う、キスをするなどはあたりまえのこととして代々行なわれていたでしょう
ミュータンス菌がうつらないのであれば、
他の細菌もうつらないかもしれません
普通の人は口の中には何百種類もの細菌が住みついていて、
外部の毒性の強い細菌が繁殖することを防いでくれています
そのような大事な細菌たちも母親からもらわないとすると、
その子の口の中の細菌組成はどうなってしまうのでしょう?
このように母親の口から子供の口へとミュータンス菌がうつらないようにすると、
その後の口の中の環境がどのようになるのか、
私はそのような研究は知りません
ところで、
母から子へとミュータンス菌がうつらないようにするのに、
キスや箸、スプーンなどに気をつけるだけうまくいくのでしょうか?
風邪やいろんな感染病を考えてみますと、
そして、何でも口に入れて試してしまう幼児の性格を考えてみますと、
そんなに単純なものではないのではないかと思ってしまいます
また、生後19−31ヶ月の間だけ気をつけていればいいように思えますが、
6才以降本当にミュータンス菌がうつらないかわかりません
(上記の研究は5才までしか調べていないのですから)
生後19-31ヶ月は乳臼歯が生える時期です
永久歯の臼歯が生える時期も本当はミュータンス菌がうつりやすいかもしれません
さらにミュータンス菌がいなければむし歯にならないのでしょうか?
そんなことはなくて、
唾液検査でミュータンス菌が見つからなくてもむし歯になる人はいます
ミュータンス菌だけが酸をだすのではありません
そして、むし歯菌だけではむし歯にはなりません
プラークや歯みがきの仕方、甘いもの、唾液の状態など、
いろんな条件が悪いほうへ傾いた時にむし歯になります
甘いもののコントロールをしっかりしている、
歯みがきをきちんと見てあげているなど、
基本的なむし歯予防法ができていて、
さらに、そんなにストレスに感じないのであれば、
箸を別にしたりキスをしないようにするのに反対はしませんが、
ストレスに感じるようであれば、無理にやるほどのむし歯予防法ではありません
いろいろと問題のあるこのむし歯予防法、
なぜ広まっていくのか、なぜおかしいと言われないのか、とても不思議です
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