1976年に歯周病の病態形成についての論文が出されました
(
ペイジ&シュレーダー:参照)
歯周病進行時の組織変化によって病変を分類していますが、
この論文を再考察する論文が2017年に出ました

ペイジ&シュレーダーモデルに立ち戻る:
歯周組織の宿主応答における良い点、悪い点そして未知の点
組織切片で見る歯周病の病態は40年前でも現在でも変わりありませんが、
免疫学はめざましく進歩してきています
いい研究論文でも古いものは今の知識をもって再評価する必要があります
このような視点から書かれた論文です
歯垢が蓄積すると歯肉炎になりますが、
ペイジ&シュレーダーの論文によると、
歯垢の周囲の歯肉にの血管が広がり炎症が起こります
血管周囲のコラーゲンがなくなったり、
免疫細胞が出現するようになります
歯肉炎のまま安定している人もいれば、
そこから歯周炎に進行する人もいます
しかし歯肉炎と歯周炎の免疫細胞構成は同じです
それにもかかわらず歯周炎では、
歯と歯肉の付着が破壊されたり周囲の骨がなくなったりします
歯周病の進行に伴うこのような病態変化は今も昔も変わりませんが、
免疫学はめざましく変化してきました
そして骨の生成、吸収に関する免疫学的研究、
いわゆる骨免疫学という分野もできましたので、
これらの視点から歯周病の病態を見ていく必要があるということですね
一昔前の考え方は以下のようなものでした
歯垢が付着すると歯周組織はまず好中球やマクロファージなどの自然免疫が対応し、
それからヘルパーT細胞が司令塔となって獲得免疫が働くようになります
自然免疫は生まれつき備わっている原始的な防御機構であり、
さまざまな有害刺激に対応できますが、
そのぶん攻撃力が今ひとつ弱いという欠点があり、
自然免疫で対応できないようなときは、
その有害刺激に特別に対抗できる細胞や抗体などを作り出す、
いわゆる獲得免疫の出番になります
自然免疫はどちらかといと獲得免疫作動までの時間稼ぎの機構のように考えられていました
ところが、これらの細胞はそれぞれがいろんな情報伝達を行い、
複雑なネットワークを形成していることがわかってきました
これは免疫細胞のみならず、歯周組織にある細胞も参加しています
また、歯周組織からの情報によって免疫系が働くのですが、
さらに炎症を停止させる合図を受け取り活動を終息させることもわかってきました
つまり歯周組織に対して上位機構である免疫システムが働いているというよりは、
歯周組織が免疫システムの調節決定権を持っていると言えます
一方骨は吸収と形成が絶え間なく繰り返されることにより、
力学的ストレスに耐えられる弾力性を有する新しい骨組織が常に形成されます

この吸収は破骨細胞がおこない形成は骨芽細胞が行なっていますが、
骨の量は情報交換により普段はバランスが取れています

この情報交換には免疫系の細胞も関わっているようで、
炎症が生じた時にバランスが崩れることも考えられます

これは歯垢の細菌群に対するさまざまな細胞の反応の一部です
このように複雑なネットワークが出来上がっています
特に好中球は単なる抗菌効果のある細胞ではなく、
他の白血球をコントロールしていることがわかってきました
急性炎症だけでなく慢性炎症中にも存在し、
好中球が多ければ多いほど歯周炎の重症度は上がります
反対に好中球がほとんどないような病気の場合、
免疫がうまく機能せず歯周病は重症化します
つまり、好中球は多くても少なくてもよくないようです
歯周炎になると骨の吸収が生じるようになりますが、
この時の組織像を観察するとB細胞や形質細胞が関与している可能性があります

しかし、B細胞や形質細胞がどのような働きをするのか、
現在のところ正確にはわかっておりません
形質細胞が抗体を出しているところも確認されていますが、
この機能していない抗体も多いようです
まだまだはっきりしていないこともありますが、
免疫細胞や歯周組織の細胞は複雑なネットワークで情報のやり取りをしており、
免疫の調節決定権は歯周組織にあるようです
免疫は外敵から身を守るシステムですが、
働きすぎると組織が破壊されてしまう諸刃の剣です
歯周組織(その他の抹消組織でも)はこの破壊行為にたいする防御のために、
局所の恒常性機構を進化させたしのかもしれません
また、糖尿病などのように全身に慢性疾患があったり、
アンバランスな食事により細胞膜の脂肪酸組成に乱れがあったりすると、
歯周組織の判断に狂いが生じ、歯肉炎から歯周炎に進行する可能性もありそうですね
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