先日のナショナルジオグラフィックWebサイトに、
ちょっと興味深いニュースの紹介がありました
チューリッヒ大学の言語学者チームが学術雑誌「サイエンス」に発表した研究の紹介です

今回の研究によると、
農耕の開始にともなって柔らかい食べ物を食べることが増えた結果、
人類の歯のかみ合わせが変化して「f」と「v」の音を発音しやすくなった、
ということです。

(縄文時代の人と現代人の歯並びの違い 千葉県立中央博物館で撮影しました)
石器時代以前の成人の頭骨でかみ合わせを見ると、
上の前歯と下の前歯の先端どうしが当たるようなかみ合わせになっています
これを切端咬合といっています
幼い時は上の前歯が下の前歯にかぶさるようになっていますが、
歯が自然にすり減り、下顎が前に出てきて切端咬合になると考えられます
しかし、農耕社会に移り穀物を栽培するようになると食生活に変化が起こります
加工した柔らかい食べ物が多くなると歯がすり減りにくくなり、
成人になっても上の歯が下の歯を多くようなかみ合わせが増えるようになりました
そしてこの時期に合わせて「f」や「v」の発音をする言葉が多く出現してきたようです
上の歯が前に出ていると「f」や「v」の発音がしやすくなるので、
そうなったのではないか、ということです

(上野の国立科学博物館で撮影しました 縄文時代前とそれ以降でかみ合わせが違います)
食生活の変化から、
上下の前歯が先端でかみ合う→上顎の前歯が下顎の前歯を覆う→言語が変わる
という変化がおきた
日本語では馴染みのない発音ですが、なかなか興味深いことです
歯科界では20世紀に理想的な咬合というものを模索していた時期があります
諸説ありましたが、
上顎の歯は下顎の歯より少し外側に出ていて、
しっかりとかみ合った位置から下顎を前や横に動かした時に、
前歯(特に犬歯)が接触して奥歯は離れるような歯並びが良いとされていました。
この理想咬合の対極にあるのが不正咬合でして、
下顎が前に出たり、上顎が前に出過ぎたり、前歯が噛み合わなかったりしたものを、
そのように言っています
しかし、健康な生活を送るのに支障のないかみ合わせならば問題ないはずで、
不正咬合とよぶこの名称について今後改善すべきものなのかもしれません
それに応じるように理想咬合についてもあまり議論されなくなってきました
ただし、かみ合わせの部分がなくなってしまったら、人工歯を入れて対応しますし、
歯列矯正もかみ合わせを変える治療です
このような場合に目安になる基準点として理想咬合というものは、
まだまだ必要な概念でると思います
さてこの理想咬合というものは、
まさに農耕社会以降で柔らかい食べ物になってきてからのかみ合わせになります


現代人の理想的な咬合
ホモ・サピエンス誕生が20万年とか30万年前のことです
農耕が始まったのはおそらく1万年ぐらい前のこと
つまり、長い間人類は切端咬合だったのでした
その状態でおそらく今より歯のトラブルが少なかったことでしょう
私たちは遺伝子レベルで農耕開始前の人々となんら違いはありません
人間の寿命や食生活の違いが大きく影響するところでありますが、
人類の大部分の時期を占めていた先人たちの理想なかみ合わせは切端咬合なのかもしれません
ニュージーランドの昔のマオリ族の骨です
現代のものですが、農耕民族ではない彼らのかみ合わせは切端咬合です

カナダやアメリカで見つかった先住民族の骨
マオリ族同様にやはり切端咬合になっています (食生活と身体の退化:W.A.Price著より)
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